ミリアは、王女様にも矛先を向けた。王女様は、あまりの恐怖で震えて跪くと言うより、そのままへにゃへにゃと座り込んでしまっていた。彼女の顔は、血の気が失せている。
「なぁ……王女様は何の発言もしてないぞ」
「ユウヤ様を狙う者は全て敵ですわっ」
ミリアは頑として譲らない。その表情には、一切の妥協が見られない。
「許してあげれば?」
「ダメですわ! 国王の行いとは思えません。まったく王族の恥ですわねっ」
ミリアが王様を睨みつけると、王様は目を逸らして更に頭を下げた。彼の額には、脂汗が滲んでいる。
どんな状況なんだよ? 俺達5人が玉座を占領して……王様達が跪き頭を下げてるし。まるで、子供の遊びの王様ゲームが現実になったような、そんな非現実感があった。
「えっと……そこの兵士の人、大扉を開けないように伝えてくれるか?」
俺は周囲の兵士に指示した。この状況が外部に漏れるのはまずいだろう。
「は、はい! かしこまりました!」
兵士はすぐに王の間の大扉を閉めた。重厚な扉がドンッと音を立てて閉まり、外部との音を遮断する。
「兵士の人、全員ここに集まってくれるか?」
俺が声をかけると、20人の兵士が俺の周りに集り、全員が俺の前で跪いた。
うわ~俺が偉くなった気がする……。権力って、こんなにも簡単に手に入るものなのか、と呆然とした。
「ここで見た事は話さないようにな! 話すと家族が危険に晒される事になるから気を付けろよ」
俺は兵士たちに念を押した。彼らの顔は、恐怖と困惑、そして忠誠心のない交ぜになった表情だった。
「はい。絶対に話しません!」
兵士たちは口々に答えた。その声には、本物の恐怖が宿っている。
「ユウヤ様……なにを勝手に終わろうとしてるのですか! この王の謀反は許しませんわ」
ミリアは、不満そうに俺を見上げた。その瞳には、まだ怒りの炎が燃えている。
「え? ダメ? 早く帰りたいし……」
「許せなくないですか? この王は……わたしからユウヤ様を奪おうとして、刃を向け牢屋に閉じ込めるつもりだったのですよ!」
ミリアの言葉に、王様は顔を青褪めさせた。彼の体は、先ほどよりもさらに大きく震えている。
「分かったから……王様も反省してるみたいだしさ。ね?」
俺は王様の方を見て、同意を求めた。なんとか穏便に、しかし俺たちに有利な形で話を終わらせたい。国王の命を奪うような事態になれば、国際問題に発展しかねない。俺のスローライフを脅かすような面倒事は、極力避けたい。
「はい。反省しております……」
王様は、震える声で答えた。その声は、蚊の鳴くようだった。
「これからは、俺達を保護して守ってくれるよね?」
俺は、未来を見据えた提案をした。俺のスローライフを守るためにも、この王国の協力は不可欠だ。
「はい。お護り致しますし、全力で協力させて頂きます」
王様は深々と頭を下げた。その姿は、まるで絶対的な主君に忠誠を誓う家臣のようだった。
「そうだ。この前、販売許可証を持っているのか!?って邪魔してきた貴族が居るんだけどさ、うちに手を出すなって言っておいてくれる? それと王様の許可証を貰えるかな?」
俺の言葉に、王様はすぐに答えた。
「はい。ただちに発行させます」
「それと……俺と友達になってくれるかな?」
俺は王様の目を見て言った。この国の最高権力者を味方につけておけば、今後の厄介事が減るだろう。
「はい。是非……こちらからもお願いしたいくらいです」
王様は、安堵したような表情で頷いた。その時、ミリアがムッとした表情で口を挟んだ。
「なにをされているのですか! 勝手に、そこで友達を作ってるです? そいつは敵ですわよ!」
ミリアの剣幕に、王様はビクリと肩を震わせた。
「仲間を作っておいた方が良いって……ダメなの?」
俺は困ったようにミリアを見た。
「ううぅ……ユウヤ様が、そう仰るなら……分かりましたわよ……もおー!」
ミリアは不満そうに言ったものの、最終的には折れてくれた。ホッとした王様と王女様だった。こうなった原因は、王様が俺の作る薬が欲しかったんだよな?別に平民の俺と娘をただ結婚させるのが目的な訳が無いし。
「王様も治癒の薬を欲しかったんだよね?」
俺は確認するように尋ねた。
「はい……それと美容薬もです」
王様は素直に答えた。その顔には、隠しきれない期待の色が浮かんでいる。
「それじゃ……今、作って置いていくからさ。次回は、俺の店に王国の兵士を護衛として毎日2人貸してよ」
「それは良いですが……」
王様は少し躊躇する。この状況で嫌でも断れないよな。ちゃんと見返りを渡さないとな。
「それで2人が王国に帰る時に治癒の薬と美容薬を持って帰れば良いんじゃないの? それを兵士を貸してくれた報酬ってことで。王国の兵士が護衛に付いてる店に、いくら貴族でも嫌がらせに来ないでしょ」
俺は提案を口にした。 王様は納得したように目を細め、満足げに頷いた。その表情を見て、俺も思わず嬉しくなる。 たった二人の兵士を貸すだけ——いや、実際には商品の運搬を任せる兵士を送り出すだけで、馬車二台分の品を報酬として得られるのだから、破格の取引と言えるだろう。 しかも、その兵士たちにはついでに店の警備までしてもらうことになっている。これは、お互いにとっては願ってもない好条件だろう。
「それもそうですわね」 ミリアも納得したようだ。「まぁ……ミリアがいてくれれば、問題ないと思うけどさ」 俺がそう言うと、ミリアはぷくっと頬を膨らませた。「か弱いわたくしに、いったい何をさせようというのですか……?」「いやいや、か弱い女の子が王様をイジメたりしないでしょ」「イジメてませんわ……」 ミリアは膨らませた頬のまま、ぷいっとそっぽを向いてしまったけれど、からかわれてるだけだと分かってくれてるようで良かった……。「じゃあ治癒の薬と美容薬を作って帰りますか」「はぁい♪ ユウヤ様」 ミリアは楽しそうに返事をした。「ユウヤ様、本当にご婚約を?」 王様が、恐る恐る尋ねてきた。その声には、まだ不安が残っているようだ。「え? あ……はい」 俺は曖昧に答えてしまった。「ユウヤ様……なんですの、その間は?」 ミリアが不満そうに俺を見上げた。「えっと……俺で本当に良いのかなと……ミリアはお姫様だったし」 王様より地位のあるミリアが平民の俺と結婚して良いのか? 結婚して俺はどうなるんだ? 不安なんですけど。その心配を王様がしてくれてるのか……? 俺の内心は、期待と戸惑いが入り混じっていた。「ユウヤ様じゃなきゃダメなのです!」 ミリアはきっぱりと言い放った。その声には、一切の迷いがなく、強い意志が込められていた。「だそうです」 俺は王様の方を見た。「そうですか……ご婚約おめでとう御座います」 王様は、安堵したように言った。その顔には、重い荷を下ろしたかのような清々しさが見える。「有難う御座います」
ミリアは、王女様にも矛先を向けた。王女様は、あまりの恐怖で震えて跪くと言うより、そのままへにゃへにゃと座り込んでしまっていた。彼女の顔は、血の気が失せている。「なぁ……王女様は何の発言もしてないぞ」「ユウヤ様を狙う者は全て敵ですわっ」 ミリアは頑として譲らない。その表情には、一切の妥協が見られない。「許してあげれば?」「ダメですわ! 国王の行いとは思えません。まったく王族の恥ですわねっ」 ミリアが王様を睨みつけると、王様は目を逸らして更に頭を下げた。彼の額には、脂汗が滲んでいる。 どんな状況なんだよ? 俺達5人が玉座を占領して……王様達が跪き頭を下げてるし。まるで、子供の遊びの王様ゲームが現実になったような、そんな非現実感があった。「えっと……そこの兵士の人、大扉を開けないように伝えてくれるか?」 俺は周囲の兵士に指示した。この状況が外部に漏れるのはまずいだろう。「は、はい! かしこまりました!」 兵士はすぐに王の間の大扉を閉めた。重厚な扉がドンッと音を立てて閉まり、外部との音を遮断する。「兵士の人、全員ここに集まってくれるか?」 俺が声をかけると、20人の兵士が俺の周りに集り、全員が俺の前で跪いた。 うわ~俺が偉くなった気がする……。権力って、こんなにも簡単に手に入るものなのか、と呆然とした。「ここで見た事は話さないようにな! 話すと家族が危険に晒される事になるから気を付けろよ」 俺は兵士たちに念を押した。彼らの顔は、恐怖と困惑、そして忠誠心のない交ぜになった表情だった。「はい。絶対に話しません!」 兵士たちは口々に答えた。その声には、本物の恐怖が宿っている。「ユウヤ様……なにを勝手に終わろうとしてるのですか! この王の謀反は許しませんわ」 ミリアは、不満そうに俺を見上げた。その瞳には、まだ怒りの炎が燃え
♢王の間での激変 王様は苛立ちを隠せない様子だった。 王座に座る彼の顔は紅潮し、わずかに口元が引きつっている。そのとき、跪いていた護衛の二人がすっと立ち上がり、近づいてきた兵士から鮮やかに武器を奪い取った。キンッ、キンッと金属音が響き、兵士たちの顔に驚きと困惑の色が浮かぶ。 ――って、おいおい……国王直属の兵士の武器を奪うなんて、ただじゃ済まないんじゃないのか? 俺の心臓がドクンと大きく跳ね、全身の血の気が引いていくような感覚に襲われる。「貴様ら……そんな真似をして、“冗談でした”や“間違いでした”で済むと思うな! 謀反の罪で死にたいらしいな……よし、全員捕らえて牢屋に入れておけ! 後で、処刑だ!」 王の怒号が広い王の間に響き渡る。その声は激情に震え、まるで雷鳴のようだ。直後、増援の兵士たちがなだれ込むように現れ、俺たちを取り囲んで槍を向けた。その数はあっという間に二十、三十と増えていく。「わたくしに刃を向けて……さて、どちらが“謀反”になるのかしらね? ラウム」 ミリアは一歩も退かず、王をまっすぐに見据えた。その青い瞳は一点の曇りもなく王を射抜き、その声は玉座の間に響き渡る鐘のように、あるいは氷のように冷たく響いた。その静かな、しかし有無を言わせぬ威圧感に、兵士たちの動きが一瞬止まる。「さっきから……何を言っている! 意味が分からん!」 王は明らかに混乱している。最初は怒鳴りつけていたはずの彼が、ミリアの放つ静かな威圧感に押され、声に焦りが滲みはじめている。彼の額には、すでに脂汗がにじみ出していた。 ――大丈夫なのか? ただの貴族のミリアの方が、ずっと余裕そうだけど……なんだろう、今はむしろ王様のほうが気圧されてる気がするんだけど……? この状況は、俺の常識を遥かに超えていた。「本気で、わたしに襲い掛かる気なのかしら?
そんな感じで数日間も移動をし、ついに王都の入り口へとたどり着いた。辺りは賑やかな声に包まれ、石畳の道を行き交う人々の姿が見える。やがて馬車は、堂々とした王城の前に着き、ゆっくりと止まった。長旅の終わりを告げるように、微かな振動が伝わってくる。「はぁ……長かった。」 俺は思わず息を吐いた。ここ数日間の馬車での移動は、快適な膝枕こそあったものの、検問や盗賊の襲撃といった不安要素も多く、常に気が抜けなかった。 ……とはいえ、心臓が一番跳ねたのは、ミリアのふとした仕草や言動だったかもしれない。 馬車が止まったからといって、それが目的地に着いた合図とは限らない。王都に入る時の検問や、ひどい時には盗賊の襲撃などで止められることもあると、窓の外を眺めていたミリアが教えてくれた。「ユウヤ様、王城の前に着きましたよ」 ミリアの声が、耳に心地よく響く。平民の服を着たメイドと護衛が馬車のドアを開けてくれて、ミリアの降りる手伝いをしてくれていた。その優雅な所作に、へぇ~俺もミリアと付き合うなら覚えないとだよなぁ……なんて、ぼんやり考えていた。 馬車から降りると、王城の兵士が恭しく応接室に案内をしてくれた。広々とした応接室で待っていると、すぐに声が掛かり、王の間へと案内をされた。「俺、初めてだから分からないんだけど……」 俺はミリアに小声で尋ねた。格式ばった場所に慣れていない俺は、どう振る舞えばいいか見当もつかない。「平民なのですから分からなくて当たり前ですよ」 ミリアはにこやかに答えた。その笑顔は、俺の不安を少しだけ和らげてくれる。「いや……王様だし。無礼だって言われて牢屋行きになるんじゃない?」 冗談めかして言ってみたが、心のどこかで本当にそうなる可能性も考えていた。前回の逮捕の件もあるし、貴族の常識は俺には理解できない部分が多い。「他の者と同じ様にしてれば良いと思いますよ」 ミリアはそう言って、俺の腕をそっと握りしめた。
続きは書けていますが、ただいま調整中です( ̄▽ ̄;)仕事が忙しくてぇ……編集する気力が。放置しているわけではありませんので、しばらくお待ちください✨ミリアさんのツンデレは、いかがでしょうか?たぶんツンデレさんを扱うのは初めてでして……しんぱい。お読みいただきありがとうございます(●'◡'●)
それにしても、国王からの呼び出しとは……。まあ、思い当たる節といえばポーションの件くらいしかないよな。他に何かした覚えもないし……。 「出発のご準備ですか?」 ミリアが心配そうに俺を見つめてくる。「まあね。国王様からお呼び出しだからさ」「わたくしも、ご一緒させていただきますわ」 ミリアは、まったく迷いのない声で言った。「本当に? 実は一人で行くの、ちょっと不安だったんだよな」 貴族のミリアが一緒にいてくれれば、かなり心強い。それに俺、国王との謁見の作法なんて何も知らないし……。「明日の朝、迎えの馬車が来るみたいだぞ」「へぇ~。ずいぶん高待遇ですわね……」 ミリアは少し驚いたような表情を浮かべた。「そうなの?」「ええ。国王が平民に迎えを出すなんて、かなりの特例ですわ。王国に多大な功績があったり、王命に関わる用件でない限りは、まずありえません」 やっぱり……治癒薬の件で“どうしても会いたい”ってことなんだろうな。 その夜。ベッドに座るミリアの隣に腰を下ろし、何かお礼になるものはないかと考える。言葉はもう何度も伝えているし、お金を渡そうにも興味なさそうだし…… ふと思いついて、前にとても喜んでくれた“頬へのキス”で感謝を伝えた。「いつもありがとうな、ミリア」「きゃぁ♡ はわわぁっ、わぁ……。い、いえ……はぅぅ……♡ も、もっと……ユウヤ様のお役に立てるように、ガンバりますわっ」 ミリアは顔を真っ赤に染めておろおろしながら、お休みの挨拶をして部屋を出ていった。 ……俺もそろそろ寝るかな。それにしても――ミリアの頬、やっぱり柔らかくていい感触だったなぁ。 ——王都への旅路 翌朝…… 準備を終え、いつものメンバーで店の前に集まっていると、迎えの馬車がやってきた。磨き上げられた車体はまばゆいほどに輝き、その側面には王家の紋章が堂々と刻まれている。 いつもの顔ぶれ――俺、ミリア、男女の護衛二人、それ