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22話 皇女の威光と薬師の交渉

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-07-03 07:00:40

 ミリアは、王女様にも矛先を向けた。王女様は、あまりの恐怖で震えて跪くと言うより、そのままへにゃへにゃと座り込んでしまっていた。彼女の顔は、血の気が失せている。

「なぁ……王女様は何の発言もしてないぞ」

「ユウヤ様を狙う者は全て敵ですわっ」

 ミリアは頑として譲らない。その表情には、一切の妥協が見られない。

「許してあげれば?」

「ダメですわ! 国王の行いとは思えません。まったく王族の恥ですわねっ」

 ミリアが王様を睨みつけると、王様は目を逸らして更に頭を下げた。彼の額には、脂汗が滲んでいる。

 どんな状況なんだよ? 俺達5人が玉座を占領して……王様達が跪き頭を下げてるし。まるで、子供の遊びの王様ゲームが現実になったような、そんな非現実感があった。

「えっと……そこの兵士の人、大扉を開けないように伝えてくれるか?」

 俺は周囲の兵士に指示した。この状況が外部に漏れるのはまずいだろう。

「は、はい! かしこまりました!」

 兵士はすぐに王の間の大扉を閉めた。重厚な扉がドンッと音を立てて閉まり、外部との音を遮断する。

「兵士の人、全員ここに集まってくれるか?」

 俺が声をかけると、20人の兵士が俺の周りに集り、全員が俺の前で跪いた。

 うわ~俺が偉くなった気がする……。権力って、こんなにも簡単に手に入るものなのか、と呆然とした。

「ここで見た事は話さないようにな! 話すと家族が危険に晒される事になるから気を付けろよ」

 俺は兵士たちに念を押した。彼らの顔は、恐怖と困惑、そして忠誠心のない交ぜになった表情だった。

「はい。絶対に話しません!」

 兵士たちは口々に答えた。その声には、本物の恐怖が宿っている。

「ユウヤ様……なにを勝手に終わろうとしてるのですか! この王の謀反は許しませんわ」

 ミリアは、不満そうに俺を見上げた。その瞳には、まだ怒りの炎が燃えている。

「え? ダメ? 早く帰りたいし……」

「許せなくないですか? この王は……わたしからユウヤ様を奪おうとして、刃を向け牢屋に閉じ込めるつもりだったのですよ!」

 ミリアの言葉に、王様は顔を青褪めさせた。彼の体は、先ほどよりもさらに大きく震えている。

「分かったから……王様も反省してるみたいだしさ。ね?」

 俺は王様の方を見て、同意を求めた。なんとか穏便に、しかし俺たちに有利な形で話を終わらせたい。国王の命を奪うような事態になれば、国際問題に発展しかねない。俺のスローライフを脅かすような面倒事は、極力避けたい。

「はい。反省しております……」

 王様は、震える声で答えた。その声は、蚊の鳴くようだった。

「これからは、俺達を保護して守ってくれるよね?」

 俺は、未来を見据えた提案をした。俺のスローライフを守るためにも、この王国の協力は不可欠だ。

「はい。お護り致しますし、全力で協力させて頂きます」

 王様は深々と頭を下げた。その姿は、まるで絶対的な主君に忠誠を誓う家臣のようだった。

「そうだ。この前、販売許可証を持っているのか!?って邪魔してきた貴族が居るんだけどさ、うちに手を出すなって言っておいてくれる? それと王様の許可証を貰えるかな?」

 俺の言葉に、王様はすぐに答えた。

「はい。ただちに発行させます」

「それと……俺と友達になってくれるかな?」

 俺は王様の目を見て言った。この国の最高権力者を味方につけておけば、今後の厄介事が減るだろう。

「はい。是非……こちらからもお願いしたいくらいです」

 王様は、安堵したような表情で頷いた。その時、ミリアがムッとした表情で口を挟んだ。

「なにをされているのですか! 勝手に、そこで友達を作ってるです? そいつは敵ですわよ!」

 ミリアの剣幕に、王様はビクリと肩を震わせた。

「仲間を作っておいた方が良いって……ダメなの?」

 俺は困ったようにミリアを見た。

「ううぅ……ユウヤ様が、そう仰るなら……分かりましたわよ……もおー!」

 ミリアは不満そうに言ったものの、最終的には折れてくれた。ホッとした王様と王女様だった。こうなった原因は、王様が俺の作る薬が欲しかったんだよな?別に平民の俺と娘をただ結婚させるのが目的な訳が無いし。

「王様も治癒の薬を欲しかったんだよね?」

 俺は確認するように尋ねた。

「はい……それと美容薬もです」

 王様は素直に答えた。その顔には、隠しきれない期待の色が浮かんでいる。

「それじゃ……今、作って置いていくからさ。次回は、俺の店に王国の兵士を護衛として毎日2人貸してよ」

「それは良いですが……」

 王様は少し躊躇する。この状況で嫌でも断れないよな。ちゃんと見返りを渡さないとな。

「それで2人が王国に帰る時に治癒の薬と美容薬を持って帰れば良いんじゃないの? それを兵士を貸してくれた報酬ってことで。王国の兵士が護衛に付いてる店に、いくら貴族でも嫌がらせに来ないでしょ」

 俺は提案を口にした。 王様は納得したように目を細め、満足げに頷いた。その表情を見て、俺も思わず嬉しくなる。 たった二人の兵士を貸すだけ——いや、実際には商品の運搬を任せる兵士を送り出すだけで、馬車二台分の品を報酬として得られるのだから、破格の取引と言えるだろう。 しかも、その兵士たちにはついでに店の警備までしてもらうことになっている。これは、お互いにとっては願ってもない好条件だろう。

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